インフルエンザ情報

新型インフルエンザについて

インフルエンザウイルスは、A・B・Cの3つの型に分けられ、このうち広く流行するのはA型とB型だけです。ウイルスの表面にある、2種類の糖タンパクの抗原性によって分類されますが、ヒトに感染してインフルエンザを起こすウイルスで、2009年春までに、地球上で流行してきた型は、

  • Aソ連型 H1N1
  • A香港型 H3N2
  • B型

の、3種類でした。

新型インフルエンザについて

これらは、空気の乾燥する冬に流行することから、季節性インフルエンザと呼ばれていました。ここに2009年春から、豚由来の新型インフルエンザが登場しました。これもH1N1型で、従来のAソ連型と同じ抗原性を有しています。
2009年5月9日、国内初の感染者が報告され、これ以後急速に感染が拡大しました。実際には2009年8月から感染が本格的に拡大し、従来の季節性インフルエンザと異なり、9月から10月にかけて新型インフルエンザが最も流行しました。

2010年度のシーズンでは、Aソ連型のインフルエンザがほぼ消失したことが確認されました。このため、Aソ連型に新型インフルエンザがとってかわった形になります。「新型インフルエンザ」といっても、2012年度にはすでに4シーズン目にあたり、従来のように冬に流行する季節性の性格を持っているため、新型と呼ぶのはふさわしくありません。そこで、専門的には、A/H1N1 2009パンデミックという、少々面倒な名前で呼ぶことになっています。ただし皆さんにとっては、まだ今のところ新型インフルエンザ、と表現したほうが通じやすいようです。従って現在の地球上で流行中の型は、

  • A「新型」H1N1(正しくはA/H1N1 2009パンデミック)
  • A香港型 H3N2
  • B型

と表現しておこうかと思います。

症状は?

症状は?

臨床所見ですが、発熱・咽頭痛・頭痛・全身の倦怠感・筋肉痛や関節痛などが突然現われ、咳・鼻汁などが相前後して続き、約1週間で軽快するのが典型的です。ウイルスの感染から発症までの潜伏期間には幅がありますが、概ね1日~5日であるようです。

A型インフルエンザの流行時期はおよそ12月から2月、B型インフルエンザの流行はやや遅く、2月から4月といったところです。しかし、インフルエンザウイルスは1年中存在しており、従ってまれに真夏においてもインフルエンザにかかることがあります。

インフルエンザはその他のいわゆるかぜ症候群に比べて全身症状が強く、またA型インフルエンザはB型インフルエンザに比して全般的に倦怠感などの全身症状が強く、一方、B型インフルエンザでは腹痛や吐き気といった腹部症状が比較的多いのが特徴です。ただしA型の中でも新型インフルエンザは、ときに腹部症状がみられます。発熱の程度は様々で、必ずしも高熱にはならなかったり、発熱しても次の日には自然にかなり熱が下がることがあります。その人の平熱よりも1℃以上上昇したら、インフルエンザの可能性がある、と言ってもよいと思います。

身の回りにインフルエンザの患者さんがいるかどうかを把握することは、診断のために非常に重要です。従って我々は患者さんの病歴を詳しくお聞きしないといけません。インフルエンザウイルスの伝染の多くは、咳やくしゃみによる飛沫の中に含まれるウイルスを、鼻や口から吸い込むことで起こりますが、上に述べた潜伏期間の最後の日(まだ元気な日)に他人にうつしてしまうことが多いことから、1日~2日くらいの間隔で家族などに感染が拡がっていくのが一般的です。

新型インフルエンザのウイルスは、のどや気管といった、気道の表面に多く増殖することが知られています。肺炎で重症化する例が多いことにも関係します。実際、新型インフルエンザ患者さんではのどの発赤の程度は、明らかに強い印象があります。咳はかわいた音で、痰が出ないのが一般的ですが、湿った音がする場合もあります。一般に、首のリンパ節の腫脹や痛みはありません。

インフルエンザの診断・治療

インフルエンザの診断・治療

インフルエンザの診断には、上述のように発症までの問診が大切ですが、確定診断のためには、鼻に細い綿棒を挿入して行う、迅速検査キットが普及しています。数分から10分ほどで、A型、B型いずれのインフルエンザであるのかが判明します。もしA型と判明した場合、それが新型インフルエンザか、香港型インフルエンザか、区別できないことになりますが、どちらの型であれ、治療法の違いはありません。もし検査結果が陰性ならば、インフルエンザではなく「一般かぜ」ということになりますが、この検査は、発症から12時間ほど経過するまでは、陰性を示すことがあることが知られています。そのため、1回の検査で結果が陰性だった場合も、インフルエンザの可能性が否定できず、もう一度検査が必要になる患者さんがたまにありますが、鼻の中を探るときに痛みを伴うため、なるべく1回で済ましたいと考えています。

インフルエンザ治療薬として、2001年2月以降、健康保険の適応となったリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)とザナミビル(商品名リレンザ)が、いずれのインフルエンザにも有効で、よく使われます。また2010年からは1日使用(吸入)するだけでよい薬(ラニナビル、商品名イナビル)や、点滴注射薬(ペラミビル、商品名ラピアクタ)も発売されました。これらの抗インフルエンザウイルス薬は、発症後48時間以内に使用開始することにより、合併症のないインフルエンザでの罹病期間を短縮することができます。実証効果として、各薬剤を使用することによって、インフルエンザ診断時から解熱するまでの時間は、平均で約25~36時間になると報告されています。
他の薬は、必須ではありませんが、悪寒の強い例では、体を温めたり免疫力の賦活効果を期待して漢方薬を使うことが多く、また、咳や咽頭痛などについて、対症療法を行います。

インフルエンザが重症化する原因の合併症として、脳症、肺炎、心筋炎、ライ症候群などがありますが、そのうち肺炎については、インフルエンザウイルス自体によるウイルス性肺炎ではなく、肺炎球菌の「混合感染」であることがわかっています。そのため、インフルエンザの患者さんが、黄色の痰を伴った強い咳をしている場合は、混合感染を疑って抗菌薬(抗生物質)を処方することがあります。

インフルエンザの診断・治療

解熱鎮痛剤の使用に関しては、なるべく使わないほうがより安全であることを、知っていただきたいと思います。使うべきなのは、高熱にひどい倦怠感を伴った時などですが、安心して使えるのはアセトアミノフェン製剤のみで、カロナール錠、アンヒバ坐薬などがこれに当たります。15歳以下のインフルエンザ患者さんには使用してはいけないことになっているのがサリチル酸系の薬ですが、医療機関から処方されるPL顆粒(および幼児用PL)やPA錠、一部の市販薬に配合されています。また、小児の場合、ジクロフェナク(商品名ボルタレンなど)やメフェナム酸(商品名ポンタールなど)といった、強い解熱鎮痛薬を使用すると、インフルエンザ脳症の頻度が増加するといわれています。特に、ボルタレンは、インフルエンザ患者さんには処方が禁止されています。

したがって、インフルエンザかもしれないと思ったら、手元にある解熱鎮痛薬や市販の総合感冒薬は、なるべく使わないほうがよいと思います。そして、熱が下がったからといって安易に動き回らずに十分に体を休め、また熱があがったならば、早く医療機関を受診されることが重要であることは、言うまでもありません。

インフルエンザ罹患後は、解熱鎮痛薬を使用しない状態で、本来の平熱(37℃未満)まで解熱し、これを48時間以上経過したら、学校への登校や仕事に復帰してよいことになっていました。ただ、抗インフルエンザ薬の実証効果が高いことは上に述べたとおりで、診断を受けて翌日には解熱してしまう例が多く、すると診断の3~4日後には多くの方が復帰されていました。しかし、実際には解熱の2日後にも体内に少量のウイルスが残っていて、少量のウイルス排出が続いていることがわかっているため、2012年4月からは、以下のように改定されました。つまり、発症してから5日(120時間)以上経過し、かつ解熱してから2日(48時間)以上経過したら復帰してよい、ということになりました。また、幼稚園児の場合は、園児同士の接触が濃厚であることから、解熱して3日(72時間)以上経過する必要があることになりました。園児の保護者の方にとっては負担が増えることになりますが、よろしくご承知おき下さい。

抗インフルエンザウイルス薬について

抗インフルエンザウイルス薬について

ノイラミニダーゼ(※)阻害薬、といわれる抗インフルエンザウイルス薬を用いた薬物療法が行われ、現在、下の4種類の薬剤があります。いずれも発症してから2日(48時間)以内に投与を開始する必要があります。効能は、インフルエンザウイルスを直接殺傷するのではありませんが、ウイルスの増殖を抑えます。それ以上経過した場合には、投与しても十分な効果は期待できないため、解熱鎮痛薬や鎮咳去痰薬などを用いる対症療法が中心となります。
抗インフルエンザウイルス薬の概要についてみていきましょう。

抗インフルエンザウイルス薬の概要

薬剤名オセルタミビル
(タミフル®)
ザナミビル
(リレンザ®)
ラニナミビル
(イナビル®)
ペラミビル
(ラピアクタ®)

バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)

剤形内服薬吸入薬吸入薬点滴静注薬

内服薬

副作用
  • 腹痛
  • 下痢
  • 嘔気
  • アナフィラキシーショック
  • 肺炎
  • 急性腎不全
  • 下痢
  • 発疹
  • 嘔気
  • アナフィラキシーショック
  • 気管支痙攣
  • アナフィラキシーショック
  • 気管支痙攣
  • 発疹
  • 嘔気
  • アナフィラキシーショック
  • 気管支痙攣
  • 発疹
  • 嘔気
  • 下痢
  • 吐き気
注意点
  • 10歳~19歳での使用は原則として差し控える
  • 高度の腎機能障害をもつ場合は医師に相談すること
  • 慢性呼吸器疾患がある場合は医師に相談すること
  • 慢性呼吸器疾患の薬を併用する場合は、当薬剤の前に使用すること
慢性呼吸器疾患がある場合は医師に相談すること高度の腎機能障害をもつ場合は医師に相談すること

小児では効果が少ないと言われている。

感染予防に用いる場合感染者に接触してから2日以内に使用開始すること感染者に接触してから1.5日以内に使用開始すること使用不可使用不可

感染者に接触してから2日以内に使用開始すること

オセルタミビルまたはザナミビルを一定期間使用する方法や、ラニナミビルを一度に吸入する方法で、感染予防に用いる場合もあります。

抗インフルエンザ薬の使用後に、小児や未成年者に異常行動がみられた(未成年のインフルエンザ罹患総数あたり、約0.001%)との報告があり、一時期は大問題となりました。これらは抗インフルエンザウイルス薬との因果関係は明らかではなく、インフルエンザ脳症の症状そのものと考えています。しかし実際、異常行動はインフルエンザの診断直後から2日以内の、高熱のある時期におこることが多いため、小児や未成年者は、抗インフルエンザ薬の使用後には一人にさせないなど、患者さんの行動に注意する必要があります。そのほか、乳幼児や妊産婦、妊娠している可能性のある場合は、受診時に医師に相談しましょう。また、抗インフルエンザウイルス薬を使用している期間は、授乳を避ける必要があります。

体調がよくなったからといって薬の使用を中止すると、症状の悪化を招く恐れもありますので、決められた日数は、指示通りに使用することが大切です。

※ノイラミニダーゼ…インフルエンザウイルスの増殖に関与する物質

予防方法(予防接種も含めて)

予防方法(予防接種も含めて)

インフルエンザの予防に最も有効とされているのが、ワクチンです。

現在まで、わが国を含め多くの国で用いられているインフルエンザワクチンは、HAワクチンといわれる不活化ワクチンです。WHOでは、世界から収集したインフルエンザの流行情報から次のシーズンの流行株を予測しています。わが国では、毎年インフルエンザシーズンの終わり頃にWHOからの情報および日本国内の流行情報などに基づいて、次シーズンのワクチン株が選定され、ワクチンが製造されます。原則的にA型の「新型」H1N1と香港型H3N2の各1株、およびB型2株(平成27年度から変更)の、合計3種4株のインフルエンザウイルスに対する混合ワクチンとなっています。それぞれのウイルス株に対する抗体を、体の中につくりますが、抗体が十分に作られるのには、ワクチンを接種してから約2~3週かかります。

免疫力が低下するような基礎疾患のある方は、インフルエンザにかかると合併症を併発する場合があり、高齢者では細菌(おもに肺炎球菌)の二次感染による肺炎を合併する危険性があります。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが、その他の合併症としては、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、サリチル酸製剤との関連が指摘されているライ症候群などが挙げられます。合併症の状況によっては入院を要したり、死亡したりする例もあります。ワクチンの効果は、インフルエンザにかからなくすることはできませんが、こういった合併症を起こすことなく、軽症で済むようにすることです。

上に述べたことを踏まえて、予防のためなるべくワクチンを接種されることをお勧めします。当院では、毎年10月半ばから、翌年1月31日まで、予防接種を受けていただくことができます。当院での接種料金ですが、名古屋市および近隣の都市に在住の65歳以上の方は1回1,500円(平成28年度から変更)です。65歳未満の方(任意接種)は1回3,000円(平成27年度から変更)ですが、当院で2回分接種していただく方については、2回目の料金は2,500円となります。生後6か月から13歳未満の方は2回接種が必要です。13歳以上の方は通常1回接種となっております。接種をご希望の方は予約を承っております。接種のお勧めの時期は、1回接種の方は11月初旬から11月終わりごろに、2回接種の方は1回目が10月中旬から11月初旬に、2回目が11月中旬から12月初旬です。ご予約、お待ちしております。

予防方法(予防接種も含めて)

また、ワクチンを接種するかしないかにかかわらず、インフルエンザにかからないためには、不用意に人混みに出かけないことですが、出かける必要があるならば、予防法として、マスク、うがい、手洗いがあることは広く知られています。

では、この中で有効性の順位をつけるとすれば、どれが重要でしょうか。私は、うがいの予防効果は確実性に乏しいと考えます。なぜなら、インフルエンザに限らず、ウイルスは一般に鼻から吸引されて鼻の奥の粘膜に付着し、約20分後には粘膜内に侵入してしまい、うがいでは除去しにくくなります。

したがって、長時間外出した場合、20分に一度、うがいを繰り返さないといけません。また、のどに付着したウイルスは除去できるとしても、鼻の奥のウイルスは除去しにくいと思われます。つまり、うがいでインフルエンザを予防するのは難しい、と考えてよいと思います。しかも、日頃からイソジンなど消毒液でうがいをされる習慣があると、消毒液が粘膜の正常な防御機構を破壊し、インフルエンザも含めて風邪にかかる確率がむしろやや増える、といったショッキングな事実も報告されています。これでは逆効果ですので、予防目的でうがいをするなら水で十分です。

ただし、歯磨きなどで口腔内の清潔を保つことは重要で、これによって、口から侵入したウイルスに感染しにくくなる、という報告があります。まとめると、予防に重要なのは、マスク、手洗い、歯磨き、となります。

このような予防法でもまだ心配で、たとえば受験などの重要な時期に、「絶対に」インフルエンザにかからないようにすることは可能ですか、と相談を受けることがたまにあります。それには治療のところで述べた抗インフルエンザ薬を、重要な期間中に予防的に使用する方法があります。ただし、予防投薬が保険適応となるのは、感染者と接触してしまった直後の場合のみですので、受験に備えて使用することは保険適応にならず、自費診療となります。また抗インフルエンザ薬が潤沢に入手できない場合は、お断りすることもありますのでご承知おき下さい。

最後に

最後に

インフルエンザにかかった可能性があると思われる場合には、上に述べたように、市販薬で様子をみるようなことはせずに、なるべく早く医療機関を受診されることをお勧めします。
そして、もしあなたがインフルエンザと診断されたら、あわてずにしっかり休養し、まずは家族にうつさないよう、慎重に行動してください。また、できれば最近接触した人に早くその旨を知らせて、気をつけるように言ってあげるとよいと思います。
なぜならば、あなたがインフルエンザを他のだれかにうつしてしまったとしても、その方が発熱などで発症した時に、早く医療機関にかかる動機づけになりますし、「最近、身の回りにインフルエンザと診断された人がいる」と医師に伝えることによって、医師の正確な判断が得られやすいからです。このページを最後まで読んでくださった方にとって、インフルエンザについての理解が少しでも深まったとすれば、幸いです。

注意

インフルエンザについては、下記の情報サイトなどもご参照ください。

厚生労働省の情報サイト

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html

国立感染症研究所の情報サイト

http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrtpc/2912-tpc393-j.html