高血圧の治療

1.血圧を下げながら、危険因子も減らしていく

1.血圧を下げながら、危険因子も減らしていく

高血圧治療の目的は、血圧を下げることだけではありません。将来の心臓や血管の病気と、それらの結果としての虚血性心疾患や脳卒中を防ぐことです。また同時に、腎臓の働きが低下しないよう保つことです。

これまでに、様々な国で行われた試験の結果、適切な降圧治療は高血圧患者に多くの有益な効果をもたらすことが明らかになっています。したがって、「自覚症状がないから平気だ」と思わずに、高血圧と診断されたら早く治療を始めるべきです。

高血圧と同時に、既に糖尿病高脂血症など、心血管病のリスクを多く持っている方は、それらも同時に改善させることで、より大きなメリットが得られます。いっぺんに薬が多くなりそう、とご心配かもしれませんが、高血圧が軽症でしたら、減塩食や減量などで、薬を使わなくても血圧を下げることができる場合があります。また糖尿病や高脂血症についても、なるべく薬を使わないことを、当院は目標にしています。高血圧と診断されたら、まずはご相談下さい。

2.肥満の解消や生活習慣の改善が大事

2.肥満の解消や生活習慣の改善が大事

本態性高血圧になったり、それが進んだりするときには、遺伝因子と共に環境因子が複雑に絡み合っています。ですから、治療を進めるときにも、環境因子の多くを占めている生活習慣の改善が必要です。
実際に、生活習慣が改善されると血圧が下がることもわかっています。生活習慣で改善すべき主な項目は、次の通りです。

食塩摂取量を適正にする
適度な運動療法をする
高度の肥満の方は、減量する
禁煙
アルコール摂取量は適量にする
十分な睡眠をとる

このように、「高血圧を防ぐ食事、生活」を実践すれば、将来の高血圧を予防できるだけでなく、軽症高血圧の人は正常範囲まで血圧を下げることができます。

食塩摂取量は、控えているつもりでも、かなり過剰に摂取している方がしばしばいらっしゃいます。当院では、適宜尿検査を施行することで、1日食塩摂取量を推定しています。これによって、より正しい食事を指導できるようになり、治療薬の選択にも役立ちます。

十分な睡眠時間をとっていても、夜間にいびきがひどく、呼吸がときどき止まる、いわゆる睡眠時無呼吸症候群の方があり、高血圧の原因および高血圧を悪化させる因子として、最近注目されています。当院では必要時には、睡眠時無呼吸があるかどうかの検査を施行しています。

高血圧の薬は、一度飲みはじめると一生飲まなければなりませんか、とよく聞かれますが、生活習慣をしっかり改善すれば、高血圧ではあっても、薬を減量していったり、場合によって薬から卒業することができる可能性もあります。

3.薬を飲んでいても生活習慣の改善が大事

3.薬を飲んでいても生活習慣の改善が大事

日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2014年版によると、具体的な治療は、血圧がどの程度高いのかと、高血圧以外の心血管病のリスクがどのくらいあるかによって3つに分けられています。

例えば、低リスク群は生活習慣改善を治療の中心としますが、6か月経過をみても血圧が140/90mmHg未満に下がらない場合には、薬による治療が併せて行われるようになります。中等リスク群も、まず生活習慣の改善から取り組みますが、3か月後に140/90mmHg未満に下がらない場合には、降圧薬治療を合わせて行っていきます。高リスク群と重症血圧患者は、放置すると危険なため、生活習慣の改善と同時に薬物療法を始めます。

高血圧患者のリスクの層別化

 軽症高血圧
(140~159/90~99mmHg)
中等症高血圧
(160~179/100~109mmHg)
重症高血圧
(≧180/≧110mmHg)
危険因子なし 低リスク 中等リスク 高リスク
糖尿病以外の危険因子あり 中等リスク 中等リスク 高リスク
糖尿病、臓器障害、心血管病のいずれかがある 高リスク 高リスク 高リスク

初診時の治療計画

初診時の治療計画

このように、薬を飲み始める前に生活習慣を改善しておくことが大切で、これによって治療効果がはっきり違ってきますし、同時に、他の心血管病のリスクを下げることにもなります。高血圧の治療においては、常に生活習慣の改善が基本になっているわけです。

降圧薬の効能は様々あり、大きく分けても6種類あります。どんなケースに、どんな降圧薬を用いるかという選択には、いろいろな要素が絡んできます。その方の状態や持病、合併症などによっては、使ってはいけない「禁忌」の薬もあります。
日本高血圧学会では、降圧薬の選択について、指針を示しています(高血圧治療ガイドライン2014年版)。

4.治療が始まったら

4.治療が始まったら

当院では、家庭血圧を重視して、なるべく家庭血圧をノート(家庭血圧帳)に記録していただいています。家庭血圧は、治療の効果を確実に知るための唯一の手段で、適切な治療のために大切ですので、家庭血圧帳をつけていただいたら、診察のたびに必ず持参して下さい。

治療効果があらわれた後、家庭血圧を記録するのが面倒になってしまいがちですが、やめてしまうのはよくありません。真夏と真冬では収縮期血圧が一般に10~15mmHgほど違います(夏に下がり、冬に上がる)。気候の変動だけでなく、様々な体調の変化によって変化する血圧に、きめ細かに対応したいと考えるからこそ、ずっと家庭血圧を記録していただきたいと思います。

家庭血圧は、朝も夜も正常に保つのが理想ですが、朝と夜の血圧に大きな差がある場合には、24時間自動血圧計を当院からお貸しして、検査をすることも有用です。

高血圧の診療の上で日頃思うのは、家庭血圧帳は医者と患者さんを結ぶ「通信簿」のようだ、ということです。例えば学童にとって、通信簿を親に見せることは決して「楽しい」ことではなく、成績がよくない時には見せたくないものでしょう。しかし、家庭血圧帳は通信簿とは以下の点で全く違います。それは、成績が悪い(家庭血圧が高い)からといって、医者(私)は決して叱ったりしないことです。家庭血圧が高ければ、薬の内容も含めて治療方針を再検討するのが医者の務めであり、その意味では、「患者さんの成績の通信簿」ではなくて、「医者の治療内容を審査する通信簿」、とも言えます。

家庭血圧を毎日つけていただいている患者さんには、本当に頭の下がる思いです。そんな努力の結晶といえる家庭血圧帳を、私は一瞥しただけでお返ししてしまうのは失礼かと考え、当院では家庭血圧のデータをすべて院内のパソコンに残し、いつでも参照できるようにしております。手間のかかる作業ですが、ぜひ続けたいと考えております。